『天倫の桜』と佐倉の伝承
佐倉市といえばBUMP OF CHICKENの故郷としても知られていますが、かつての城下町のおもかげを遺している、歴史の香る市です。
先日佐倉市立美術館を訪れた際に何気なく館内のポスターを眺めていたら、古きよき佐倉を舞台にしたスマホRPG『転倫の桜』が佐倉市公式にリリースされていたことを知り、おどろきました。詳しく調べてみたら、どうやら観光PRを目的として製作されたようですが、けっして市の宣伝のみにはとどまらないクオリティであると察せられました。
私は元来ゲーム好きで(夢中になりすぎてしまうきらいがあってゲームから遠ざかったようなところもあり)、『天倫の桜』の和風ファンタジーの世界観と往年の王道RPGを思わせるゲームデザイン、なによりも馴染みの地域を舞台としていることに、とても興味を惹かれました。
そして実際に遊んでみたところ、予想以上に硬派な作品で、クリアまでにかかった総プレイ時間は20時間ほど。
ゲームには佐倉市および城下町の地形がそっくり再現されており、地名もそのまま、観光名所として有名な佐倉城や武家屋敷などは主要な場所として登場している。なおかつシナリオには、佐倉市にまつわる二つの伝承がモチーフになっていることに気がつきました。
◇龍神伝説。佐倉市北部にあり他市とも隣接している広大な印旛沼には、かつて龍が棲んでいたという。日照りが続き困窮していた農民を助けたいと思った龍は、自らの力で雨を降らせる。しかし龍よりもさらに上の権力をもつ龍王は、印旛沼の龍が勝手に雨を降らせたことを怒り、罰として龍のからだを三つに分けてしまう。(三つに分かれて地に墜ちたからだの一部はそれぞれ千葉県下総地方の龍角寺・龍腹寺・龍尾寺に祀られているそう。)
◇佐倉宗吾の史実。江戸時代、凶作と重税に苦しむ農民を助けるため、義憤にかられた木内惣五郎は、幕府に直訴した。おかげで農民は苦しみから解放されたが、しかしどのような事情であれ幕府に直訴することは僭越行為であり、惣五郎は処刑されてしまう。佐倉藩はのちに失政を悔い、義勇を果たした木内惣五郎は宗吾様として神格化され、成田市にある宗吾霊堂に祀られている。
龍神伝説がシナリオの中心的なモチーフになっているのはもちろん、佐倉宗吾の史実にも共通している、自らの命を犠牲にしても民衆を助けようとする行動が、『天倫の桜』ではえがかれています。
悲運に翻弄されながらも、前を向いて強く進んでいこうとする登場人物たちの姿。それはどこか、BUMP OF CHIKENの曲にも重なるかのよう。
〈桜〉とおなじ音をしている〈佐倉〉には、桜のように凛とした歴史と精神が宿っている。
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