まいごの狐



いつか桜をみにでかけてそのまま行方不明になった弟を探しにいきたくなる春の夕暮れ
弟なんてはじめからいないのに

高速道路の高架下で狐のなきごえ
だれにもきこえないから
だれかにきこえることもある

回送列車の座席に
空白の電話ボックスに
深夜の公園のブランコに
逢ったこともないひとのおもかげが宿っている

つながらない受話器を耳にあてるようにして
ここにはいない狐のなきごえをきく

まいごになったときにだけ歩ける道がある




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